韓国語には「もらう」がない
韓国語には、「もらう」をベースとした、「~れる」の受動態と「ください」「くれる」「いただく」という言葉がありません。「受ける」「被る」だけがあります。
「もらう」の反対語は、「あげる」です。ここでは「もらう」側を「受ける側」、「あげる」側を「与える側」として、「もらう」のベースの言葉が多い日本語を「受ける側」、「もらう」が全くない韓国語を「与える側」で説明していきます。
日本語の「もらう」を韓国語で表す時は?
日本語の「もらう」をベースとした言い方は、韓国語では「与える」を使いながら表現をします。韓国語を「与える側」としたのは、これが理由です。
日本語 /動作を受ける側/(動作・物を)もらう | 韓国語/動作を与える側/(動作・物を)与える |
私は先生に注意されました | 先生が注意しました |
私は田中さんに招待されました | 田中さんが私を招待しました |
~をください | ~を与えて(よ) |
~をしてください | ~する(という動作)を与えて(よ) |
集まってください | 集まる(という動作)を与えて(よ) |
恋人が私にプレゼントをくれました | 恋人が私にプレゼントを与えました |
私は恋人にプレゼントをもらいました | 私は恋人からプレゼントを受けました/ 恋人が私にプレゼントを 与えました |
司会をさせていただきます佐藤です | 司会をする佐藤です |
発表させていただけますか? | 発表します/発表したいです/発表していいですか? |
(あなたが)お越しいただきありがとうございます | (あなたが)お越しして、ありがとうございます |
食前・食後の挨拶
受ける側・与える側のコントラストがくっきりでるのが、食前・食後の挨拶です。
日本語の「いただきます」「ご馳走様でした」は、韓国語では「よく食べます」「よく食べました」と言います。
「与える」がベースにある 言葉・会話
与える側の韓国語を話す韓国人は、韓国語の特性から無意識に、何を与えるかを考えています。 “与える”をベースとした言葉・会話を紹介します。
食べ物を提供する人が食べる人にいう言葉/挨拶:美味しく食べて(よ)→おいしさを与えたい
結婚する理由をきくと:幸せにしてあげたいから→幸せを与えたい
恋人と別れて寂しい時に:僕と一緒にいたら、幸せにしてあげられたのに→幸せを与えたのに
おしゃれがあまり上手でない人をみて:もっとちょっときれいにしたら、もっと周りの人を喜ばせられるのに→おしゃれの目的は周りに喜びを与えること
おしゃべりの目的は?:おしゃべりして相手を楽しませたいから。相手が笑ったり喜んだりしたら、嬉しい→相手に楽しみを与えたい
※逆に、自分の感情のままにしゃべりたいことだけしゃべる人は“感情のごみ箱”と呼ばれ、嫌われるそうです。
配慮:困った人を、助けてあげる、世話してあげようと心を使うこと→助ける動作を与える、世話という動作を与えようと心を使うこと
こんなに違う!立場による思考方法
さて、動作は与える側から始まります。受ける側は与える側の動作がないとなりたちません。与える側が決定権をもっていて、受ける側は与える側によって左右され、影響をうけます。
動作の始まりが自分か自分でないか、与える側か受ける側かで思考方法が全く違ってきます。思考方法の違いがくっきりわかる項目で比較表を作ってみました。
日本/受ける側 | 韓国/与える側 | |
始まり/決定権 | 自分以外の周囲 (親・社会・国・常識・道徳・習慣など) | 自分 |
大切な価値観※1 | 協調性(周囲・自分以外もの が決めたとにあわせること) | 自主性(自分で決めること) |
上位が下位に※2 | マニュアル・仕組み・制度などの自分で意思決定をしないですむ環境を作る | なし (自分でみながら覚えなさい/自分で意思決定できるでしょ) |
下位の態度 | 指示されたこと・言われたことしかしない。 指示以外のことをすると怒られる | 指示されたこと・言われたこと以外もする 。指示したことしかしないと怒られる |
要求されるスキル | 正確性 | 迅速性 |
目標 | あるべき姿(周囲がよいとしたもの) | (自分が)なりたい姿 |
目標の達成のためにすること | 勉強 (中国語の“勉強”はしたくないこと、できないことを無理強いする、強制する) | 工夫 (日本語の”勉強”/英語の”STUDY”は、漢字“工夫”を韓国語読み |
悩み | “あるべき姿” に自分がなっていない | “なりたい姿”に自分がなっていない |
悩みの解決方法 | ?? | なりたい自分になるには、どうしたらいいのか方法を考えるか、みつける(=工夫する) |
よくある不満 | 教えてくれない | 遅い |
不満の解決法 | 自分で解決できる方法はある。聞いたり、調べたりすればいいが、聞くのが恥ずかしかったり、自分で解決できるとは思いつかない為、悶々とする | 相手次第なので、自分で解決する方法はない。相手を“速く、速く”と催促するしかなく、効果がない為、悶々とする |
複数人で食事する時の話題 | みんなの基準にあう事・さしさわりのない事 。天気・ニュースなどの他人事 | みんなが楽しいこと 自分の事 |
新しい事を始める時の基準 | いいか?悪いか? (周囲の価値観とあっているか?いないか?) | したいか?したくないか? (自分の意思とあっているか?いないか?) |
始める前に考える事 | できるか/できないか (自分に能力があるか、周囲の環境が整っているか) | するか/しないか (能力・周囲は関係ない。能力はみににつけ、環境は作っていけばよい) |
※1:日本/協調性・韓国/自主性の民族性の違いは、食べる習慣からだけではなく、言語にも起因されています。他人が決める?自分が決める?
※2:①日本の大企業でインターンをしたことがある友人は、お客様と対応する電話の受け答えのマニュアルがあるのをみて、その会社特有のものだと思っていました。日本ではどの会社でも電話対応のマニュアルがあるのを知って驚いていました。韓国では大企業でも、最初の挨拶の一言は同じですが、あとは担当にまかせられているそうです。
②韓国は周りの環境・自分が全く整っていなくても問題ではないので、「大丈夫です。」(ケンチャナヨ)をよく言います。
朱に交って赤くなった!
私の周囲―与える側の韓国人はいつも誰かに何かを与えようとして、行動しています。家族に幸せを与えたいから、お金を稼ぎます。誰かに健康を与えたいから料理します。韓国で料理にチャレンジ! その1
相手に喜び・楽しみを与えたいからおしゃべりをしたり、SNSを送ったりします。
そんな人達に囲まれて、いつしか私も、誰かに何かを与えるために、行動するようになってきました。仕事をするのは、相手に楽しみを与えたいから、家族に幸せを与えたいから。家事をするのは家族に安楽を与えたいから。美味しいものを食べるのは相手によりおいしいものを与えたいから。ドラマ・映画をみるのはパワーをもらって、そのパワーを誰かに分けてもっと楽しみを与えたいからーというようにです。おしゃべりとSNSも、気づいたら、相手に楽しみ・喜び・笑いを与えたいために、いろいろ工夫するようになりました。
これは私がSNSで愛用している「おばちゃん」スタンプです。「おばちゃん」は人気があって、シリーズになっています。
この記事も、誰か指示や依頼や、誰かの顔色をみてとかで書いているのではなく、自分が書きたい(自主性)から書いています。記事を書いている目的は、自分の自己表現ではなく、みなさんにたくさん楽しみを与えたいからです。 楽しく読んでもらうにはどう書いたらいいか、わかりやすいか工夫しながら書いています。
「開始」―ドラマ「梨泰院クラス」主題歌 ―私はやりたいことをやります
最後に、与える側の特性「自主性」―自分のやりたいことをやってみせる―という歌詞の歌「開始」を紹介します。2020年に韓国で放送され、全世界で人気を博したドラマ「梨泰院クラス」の主題歌です。 曲名は“スタート”や“始まり”と訳されているようですが、それでは、自分が“始める”というニュアンスがでないです。「始める」としたいところですが、韓国語では漢字の「始作」なので、漢字2字の「開始」にしました。和訳つきです。途中の「僕は自分の信念を貫くから」のフレーズは意訳で、直訳すると「僕は自分の道を行くから」です。
歌からみなぎるパワーをもらってください。
(2024年10月16日 韓大納言記)
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コメント
これはもう感動的、衝撃的としか言いようかありません!
「与える」をベースに持つ韓国語と「受ける」をベースに持つ日本語とは、考えてもみませんでした。
韓大納言氏が「与える」側の人間になっておられることがよく分かります。
このブログを読めば読むほど、韓国が好きになっていきます。
自分も早速何人かに、このブログの記事を「与える」ことから始めていきたいと思います。
大変な力作をありがとうございました!